悪性黒色腫
悪性黒色腫とは
悪性黒色腫は皮膚がんの一種です。メラノーマまたは黒色腫と呼ばれることもあります。表皮の基底層に分布しているメラノサイト(皮膚の色に関係するメラニン色素を産生する皮膚の細胞)、あるいは母斑細胞(ぼはんさいぼう:ほくろの細胞)が悪性化した腫瘍と考えられます。
1年間に10万人当たり1~2人発症するといわれています。したがって大阪市(人口約270万人)では1年間に27人~54人程度、悪性黒色腫を発症していると予想されます。
症状と特徴
早期の悪性黒色腫の場合、通常のほくろやシミと非常に見た目が似ています。皮膚科専門医以外が早期の悪性黒色腫と通常のほくろ・シミを見分けることは通常はむずかしいです。
悪性黒色腫の早期発見のためには、下に示すABCD基準やGlasgow seven-point checklistが役立つといわれています。ほかにも病変の大きさ、形、色に変化がないか、潰瘍や出血がないか、感覚に変化がないか、大きさ(最も長いところ)が6mmを超えていないかという点にも注意が必要です。
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- ABCD診断基準
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- Asymmetry(非対称性形状)
- Border irregularity(不規則な境界)
- Color variegation(多彩な色調)
- Diameter enlargement(直径6mm以上)
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- Glasgow seven-point check list
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- major feature
- 1:大きさの変化
- 2:形状の変化
- 3:色調の変化
- minor feature
- 4:直径が6mm超
- 5:炎症症状
- 6:湿潤・出血
- 7:軽度のそう痒または違和感
上記のmajor featureのいずれかを示す病変が成人にみられたら摘出を考慮すべきであり、さらにminor featureを示す場合には悪性黒色腫である臨床的疑いが高くなる
検査と診断
悪性黒色腫の診断には、まず熟練した皮膚科医による肉眼やダーモスコピーによる観察が重要です。そして通常は確定診断のために、生検(病変を切除して採取した組織を顕微鏡で調べる検査)が行われます。また生検の際に同時に腫瘍の厚さを調べて、腫瘍の進行度合いを判断します。
診断が明らかな場合には、生検が行われない場合もあります。確定診断後は、他部位への転移が無いか画像検査(CT、MRI、PETなど)を行うことが多いです。
主な検査方法
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- ・ダーモスコピー
- ダーモスコピーとは、エコージェルや偏光レンズで光の乱反射を抑え、強い光線を照射することにより皮膚病変を10~30倍に拡大して観察する機器(ダーモスコープ)を使った診断法です。ダーモスコープを使用すると、色素沈着の状態が詳しく診察でき、色のつき方や血管のパターンでほくろやシミとメラノーマを見分けるのに役立ちます。
ダーモスコピーによる診断法に習熟した皮膚科医が悪性黒色腫(特に早期の病変)を診断した場合、ダーモスコピーを用いると4~9倍診断精度が向上すると報告されています※)。 当院ではダーモスコピーによる診断法に習熟した「日本皮膚科学会認定皮膚科専門医」が、気になるほくろやシミをダーモスコピーや視診・触診を駆使して診断いたします。 ※) Vestergaard ME, Macaskill P, Holt PE, et al: Dermoscopy compared with naked eye examination for the diagnosis of primary melanoma: a meta-analysis of studies performed in a clinical setting, Br J Dermatol, 2008; 159: 669-676.(エビデンスレベル Ⅰ)
※) Troyanova P: A beneficial effect of a short-term formal training course in epiluminescence microscopy on the diagnostic performance of dermatologists about cutaneous malignant melanoma, Skin Res Technol, 2003; 9: 269-273.(エビデンスレベルⅢ)
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- ・皮膚生検
- 確定診断目的に病変部を切除して、採取した組織を顕微鏡で調べる検査です。全切除生検(手術で腫瘍全体を切除する)と、部分生検(病変の一部を切除する)があり、日本では通常は全切除生検が行われます。病変が大きい場合など全切除生検が難しい場合には部分生検が行われることがあります。通常約2週間で皮膚生検の結果は明らかになります。診断や腫瘍の厚みが明らかな場合には、生検を行わない場合もあります。
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- ・画像検査
- 画像検査(超音波検査、CT、MRI、PETなど)は、他の部位への転移の有無を調べるために行います。
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- ・血液検査
- 腫瘍マーカーの値を血液検査で測定して病状の参考にする場合もあります。しかしながら、通常腫瘍マーカーはかなり進行しない限り高値をしめすことが無く、がん以外の原因や季節によっても高値を示すことがあるため、早期診断には用いません。病勢や治療効果の判断などに使用されることが多いです。
残念ながら、早期診断に有用な血液検査は今のところありません。
治療
悪性黒色腫では、病期(進行の度合い)にもとづいて治療方針が立てられます。
他の臓器への転移がないⅠ~Ⅲ期までの患者さんでは主として手術療法を行います。また、手術後の転移や再発を防ぐ目的で化学療法、インターフェロン療法などの薬物療法が行われる場合があります。
他の臓器に転移があるⅣ期の方や様々な理由で手術ができない患者さんには、薬物療法が中心となります。薬物療法では「分子標的薬」や「がん免疫療法」が登場したことで、これまで治療が不可能であった患者さんにも治療を提供できる場合が多くなってきました。