伝染性軟属腫(水いぼ)
ミズイボというのは俗称です。正式には伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ)と呼ばれます。ミズイボは伝染性軟属腫ウイルス(molluscum contagiosum virus; MCV)が表皮角化細胞へ感染することで生じます。軟属腫が発症するまでの潜伏期間は14日~50日とされています。
伝染性軟属腫は1~5mm程度の大きさで、表面がツルツルして光沢のある皮膚の盛り上がり(丘疹)で、その頂点がやや陥凹しているのが特徴です。このウイルスは健常な皮膚には感染できないといわてれています。引掻き傷や微細な傷、肌荒れ、乾燥肌、湿疹などの皮膚のバリア機能が破綻した部位から感染するといわれています。また細胞性免疫機能が低下している場合も感染しやすくなると考えられています。
伝染性軟属腫は小児では体幹部(胸、腹、背部、股など)や四肢(腕や脚)に生じることが多く、様々な大きさの小丘疹(小さなブツブツ)が多発します。2~12歳の小児に好発し、アトピー性皮膚炎の患者には(皮膚のバリア機能破綻の影響により)特に出来やすいです。
また、健常大人では伝染性軟属腫は非常に希です。大人に多数の伝染性軟属腫を認める場合はAIDSに感染している可能性を考慮する必要があります。
伝染性軟属腫は健常小児では何れ自然消退することが多いです。したがって積極的な治療は必要ないという意見もあります(自然消退に要する期間は一般的には6~8ヶ月程度とされますが、数年~5年も要する場合もあります)。一方で、無治療のまま放置すると数が増えて範囲も拡大することもあります。その結果、周囲の小児に感染させたり、あるいは湿疹やとびひ(伝染性膿痂疹)を引き起こしたりする可能性があります。したがって、むしろ積極的に治療した方が良いとの意見も多いです。
治療
伝染性軟属腫のウイルス自体をすべて直接死滅させる治療は現在のところありません。現在可能な治療は、肉眼的に確認できる皮疹に対して行う治療のみで、既に感染しているが潜伏期にある部分(感染から14日~50日)に対しては治療方法がありません。
施行が可能な治療のうち広く一般的に行われているのが、ピンセットによる摘除および液体窒素による冷凍凝固です。いずれも肉眼的に確認できる皮疹に対しては非常に有効な治療法です。しかしながら子供に痛みや精神的苦痛を強いる治療法であることが欠点です(液体窒素による冷凍凝固の方がより苦痛が少ない印象です)。病変の数が多くなればあるほど治療回数が増えて苦痛も大きくなるため、当院では、なるべく数が少ないうちにこの治療法で早く治したほうが良いのではないかと考えています。
また、伝染性軟属腫の治療の目的はウイルスを早く死滅させるということよりも、伝染性軟属腫に対する免疫機能が成熟するまでの間、伝染性軟属腫の数を可能な限り減らして、患児が社会生活の制限を受けないようにすることであることをご理解下さい。
この他にも、患児の苦痛の少ない治療では、化学物質による腐食や漢方薬(ヨクイニン)内服もあります。効果は冷凍凝固やピンセットによる摘除の治療法より少ないですが、苦痛も少ないので、試してみてもよい治療です。
尚、現在ところ伝染性軟属腫を予防するワクチンはありません。
注意事項
学校感染症(伝染性軟属腫)に関する統一見解では、「幼児・小児によく生じ、放っておいても自然に治ってしまうこともありますが、それまでには長期間を要するため、周囲の小児に伝染することを考慮して治療します。プールなどの肌の触れ合う場ではタオルや水着、またはプールのビート板や浮き輪の共用を控えるなどの配慮が必要です。この疾患のために、学校を休む必要はありません。」
従って、伝染性軟属腫がある時にプールを使用する場合、上記の配慮をしながら周囲の小児に直接肌が触れ合わないよう注意することが肝要です。